介護施設での虐待と施設の責任
名古屋市の特別養護老人ホームでショートステイを利用していた高齢女性が病院に搬送された後に死亡した事件に関し、同ホームの元職員が傷害致死容疑で逮捕されたとの報道がありました(毎日新聞 2022/8/17 19:05(最終更新 8/17 23:47) )
夜間に担当していた元職員が身体的虐待に及んでいたようです。
この場合、元職員が刑事責任を負うのは当然ですが、被害者の遺族から民事上の損害賠償請求を受けることになります。賠償額は数千万円となる可能性が高いです。
では、施設側は責任を負うでしょうか。
職員が故意に犯罪行為に及んだ事件ですが、施設側も賠償責任を免れることはできないでしょう。
職員が利用者を怪我させた場合、施設が責任を負う主な根拠としては、①利用者との利用契約の債務不履行責任、②使用者責任(民法715条)の二つです。
一般に、施設が職員に対する監督責任を果たしたとして、責任を免れるのは難しいのです。
民法715条但書には、「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」と記載され、監督責任を果たせば免責されることにはなるのですが、実際には同条但書により免責されるケースは非常にまれです。
夜間にリスクのある職員を一人で担当させたことなど、
このように施設がも賠償責任を免れないわけですが、このような虐待事案が報道された場合に問題なのは、損害賠償だけではありません。
虐待が発生した施設と報道されることにより、新たな利用申込みが減ったり、職員の応募が減少したりするケースが多いです。
1件の虐待だけでなく、他にも同様の事案があったのではないかと疑われてしまいます。
そもそも、虐待が認められた場合には、速やかに市町村に通報する必要があります。
通報を受けた市町村は、虐待について調査を行います。他の案件も含めて行政処分を受ける可能性もあります。
施設としては、虐待事例が発生した場合には、警察の捜査とは別に事実関係を整理した上で、再発防止策を作成して発表するなどして、信頼回復に努める必要があります。
本件のような報道がされた場合には、迅速に信頼回復に努めなければ、施設の運営を続けられない事態となる可能性もあります。損害賠償責任よりも、信頼回復が重要なのです。