残業代請求をされたら?企業が知っておくべき対応方法

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未払い残業代を請求されたら会社側の対応方法

残業代請求をされた企業が実施すべきことは下記の通りです。

十分に対応方法を把握していないと、リスクがあるため注意が必要です。

① 就業規則(賃金規程)、給与明細の確認

就業規則(賃金規程)が非常に重要です。

従業員との個別の合意や従前の運用を理由とした残業代の計算は、裁判では通用しない可能性が高いです。

したがって、まず、就業規則(賃金規程)に、労働時間、基本給、歩合給、各種手当、残業代、残業代の計算方法等に関して、どのように記載されているかを確認する必要があります。

② 実労働時間の調査

普段からタイムカードや勤怠管理システムなどで客観的な労働時間を把握している場合は、タイムカード等に基づき始業と就業時間を計算することになります。

しかし、問題となることが多いのが休憩時間、待機時間(宿直を含む)です。

従業員側からは、「実際には休憩時間はなかった」「休憩時間中も、外線電話、事業所内の呼出しや事務連絡に対応する必要があった」から休憩時間ではないとの主張がなされることが多いです。

実労働時間の調査と合わせて、休憩していた事実とその時間を裏付ける資料(証拠)を準備しましょう。

残業代の計算

実労働時間が明らかになれば、時間外労働時間も明らかになりますので、割増賃金の基礎となる賃金に時間外労働時間と各割増率を乗じることで残業代を計算することになります。

使用者は、労働者に時間外労働、休日労働、深夜労働を行わせた場合には、法令で定める割増率以上の率で算定した割増賃金を支払わなければなりません。

割増率は次のとおりです。

割増賃金率 時間外労働 25%以上(1か月60時間を超える時間外労働については5割以上)
休日労働 35%以上
深夜労働 25%以上

残業代(割増賃金)の計算方法

割増賃金額=1時間あたりの賃金額×(時間外労働、休日労働または深夜労働を行わせた時間数)×割増賃金率

割増賃金の基礎となるのは、所定労働時間の労働に対して支払われる「1時間当たりの賃金額」です。

例えば、月給制の場合、各種手当も含めた月給を、1か月の所定労働時間で割って、1時間当たりの賃金額を算出します。

しかし、実際には、手当を含めずに1時間あたりの賃金額を計算している事業所が非常に多いです。

以下の①~⑦は、労働と直接的な関係が薄く、個人的事情に基づいて支給されていることなどにより、基礎となる賃金から除外することができるとされています(労働基準法第37条第5項、労働基準法施行規則第21条)。

 ①家族手当

 ②通動手当

 ③別居手当

 ④子女教育手当

 ⑤住宅手当

 ⑥臨時に支払われた賃金

 ⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

しかし、上記①の割増賃金の基礎から除外できる家族手当とは、扶養家族の人数またはこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当です。

除外できる例:扶養家族のある労働者に対し、家族の人数に応じて支給するもの

(扶養義務のある家族1人につき、1か月当たり配偶者1万円、その他の家族5千円を支給する場合。)

除外できない例:扶養家族の有無、家族の人数に関係なく一律に支給するもの

(扶養家族の人数に関係なく、一律1か月1万5千円を支給する場合。)

上記②の割増賃金の基礎から除外できる通勤手当とは、通動距離または通動に要する実際費用に応じて算定される手当をいいます。

したがって、通勤に要した費用に応じて支給するもの((例) 6か月定期券の金額に応じた費用を支給する場合。)は、割増賃金の基礎に含める必要はありません。

しかし、通勤に要した費用や通勤距離に関係なく一律に支給するもの((例)実際の通勤距離にかかわらず1日300円を支給する場合。)については、割増賃金の基礎に含めなくてはなりません。

こうした通勤手当を支給されいてる中小企業は非常に多く、残業代請求事件で問題になることが多いです。

上記⑤の割増賃金の基礎から除外できる住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当をいいます。

具体的は、住宅に要する費用に定率を乗じた額を支給するものは割増賃金の基礎に含める必要はありません。

(賃貸住宅居住者には家賃の一定割合、持家居住者にはローン月額の一定割合を支給する場合。)

しかし、住宅の形態ごとに一律に定額で支給する住宅手当は、割増賃金の基礎から除外することができません。

(賃貸住宅居住者には2万円、持家居住者には1万円を支給する場合。)

このように、原則として手当も割増賃金の基礎に含めなければなりませんが、手当を含めないで割増賃金(残業代)を計算している事業所が多いです。残業代請求また、割増賃金から除外できる住宅手当、通勤手当、家族手当だと考えていも、定額で支給している場合などには、除外できない場合がありますので、この点も注意しましょう。

未払残業代の有無を確認

実労働時間を前提に上記の計算方法で計算した残業代が既に支払った残業代を上回っていれば、未払残業代を支払う義務があります。

交渉

実際の事案では、実労働時間数や残業代の計算方法(割増賃金の基礎など)について、見解の相違があることがほとんどですので、双方が主張し合った上で、妥協点を見出すことができれば、和解することになります。

和解することができなければ、従業員側は、労働審判、訴訟等の裁判手続により、残業代を請求しますので、事業所側はこうした裁判手続に対応しなければなりません。

残業代請求がなされる具体的な流れ

1 弁護士または本人から内容証明郵便による残業代請求の催告

最初に送付される催告書に残業代の金額が明示されていることは少なく、就業規則、賃金台帳、タイムカードなど残業代を計算するための基礎資料の開示が求められることが多いです。

2 事業所側において資料開示

労働者からの資料開示請求については、弁護士に相談した上で、必要な範囲で開示した方が良いでしょう。不必要な資料については開示する必要はありませんが、合理的な理由もなく、全面的に開示を拒否する場合は、労働者側が裁判所に証拠保全を申立て、裁判所が事業所にタイムカード等の証拠を保全するために(写真やコピーを保存するために)、連絡なくやってくる事態となる場合があります。

3 開示資料に基づき労働者側が残業代請求

労働者側は、開示された資料に基づき残業代を計算して、請求します。

事業所側において反論

労働者側の請求は、労働時間が実態に沿わず長時間となっていたり、休憩時間が含まれていなかったり、割増賃金の基礎が高額であったり、事業者側が支払っていた各種手当名目の残業代の支払を否定していたりすることが多いです。こうした点について反論する必要があります。

交渉

双方の主張が大きく食い違う事例がほとんどですが、双方にとって早期解決することはメリットがありますので、妥協点を見出すべく交渉します。

しかし、高額の残業代を請求している事例、パワハラやセクハラの損害賠償請求も同時に行っている事例、解雇無効を主張している事例では、争点が多岐にわたることなどから、早期に和解することは難しいことが多いです。

それでも、当事務所としては、安易に和解はしませんが、交渉段階で可能な限り主張立証を尽くした上で、結果として、裁判に至らず和解で紛争を解決することが少なくありません。

和解成立

双方が合意すれば、和解書を作成します。

退職するか否か

従業員が退職せずに残業代請求した場合、退職が問題となることがあります。もちろん、残業代請求したことを理由に解雇することなどできませんし、退職を強要することはできません。

しかし、従業員が退職の意向を示しているのであれば、和解書の中で、従業員が退職することを明確に確認し、未払残業代に上乗せ退職金を含む解決金を支払うことで、紛争が解決できることが少なくありません。

和解条項

未払残業代を支払う内容の和解をする場合、他の従業員への影響を考慮して、守秘条項を付けることが多いです。

和解交渉の経緯や和解内容を他の従業員が知るところとなれば、「それならば、俺も、俺も」「私も私も」ということで、同様の残業代請求が続発してしまいます。そのため、和解する際には、名目を残業代ではなく、「解決金」とし、かつ、守秘条項を付すことが多いです。

和解する場合には必ず守秘条項を入れましょう。実際に和解する場合には、事件を弁護士に依頼していない場合でも、和解書の作成または和解書のレビューだけでも弁護士に依頼すべきです。

介護事業所における残業代請求対応の概要は以上のとおりですが、実際に請求された場合の対応は、顧問弁護士に依頼すべきです。

専門家に依頼した方が少しでも有利になる(不利にならない)ですし、当事者である事業所の経営者や人事労務の担当者が矢面に立つのは精神的・身体的負担が大きすぎます。

そもそも、残業代請求を受ける(未払残業代が発生している)事態を改善する必要があります。

予想しない人件費負担を回避するためにも、従業員の意欲を高めるためにも、時間外労働、休日労働、深夜労働に対しては適切な残業代(割増賃金)を支払う体制を整える必要があります。

労働審判

和解が不成立となった場合、残業代請求については、労働審判が申し立てられることが多いです。

労働審判は、通常の訴訟とは異なり、裁判期日は3回しかなく、通常3か月程度で終了します。

しかし、裁判所の審判に強制力はなく、不服がある当事者は通常の訴訟で争うことができます。

訴訟

残業代請求事件の場合に1年半程度の審理期間を要することが一般です。

訴訟の途中で、裁判所の和解勧告に従い早期解決することもありますが、複雑な事案で対立が鮮明な場合には、1審だけで2年以上を要し、控訴審も含めれば計3年以上を要する場合も少なくありません。

残業代請求された場合の流れは以上のとおりです。

残業代請求されないように就業規則を整備し、適正に労働時間を管理することが何より重要です。

当事務所では、就業規則の改定のご依頼をお受けしていますので、お気軽にご相談ください。

また、残業代請求された場合には、できるだけ早く労働事件に精通した弁護士に相談し、交渉や訴訟を委任しましょう。

当事務所にご相談の方は以下よりご連絡ください。

木蓮法律事務所
お問い合わせはこちらから TEL:092-753-8035 平日(土日祝除く)9:00~18:00メールでのお問い合わせ
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